"Return of the Obra Dinn" 海に浮かぶ棺

*ネタバレありますがクリアにつながるヒントはほとんど記載していません。

 


Return of the Obra Dinn - Available Now

 

見渡す限りの黒い海。

やがて訪れる嵐の気配。

5年の時を超えて、乗組員の亡骸を載せて帰還した幽霊船。

白黒の点描で描かれたオブラ・ディン号の上で、プレイヤーは一人徘徊する。

抑えきれない心細さと、そこから生じる幽霊たちへの親近感。

そしてふと気づくのだ。彼らは死んでしまったのだと……

 

-あらすじ

時は1802年。200トン以上の交易品を積んだ商船「オブラ・ディン号」が、ロンドンから東方に向けて出港した。その6か月後、同船は予定されていた喜望峰への到達を果たさず、消息不明扱いとなった。

そして今日、1807年10月14日早朝のこと。オブラ・ディン号は突然、ファルマス港に姿を現す。帆は損傷し、船員の姿も見えない。これを受け、東インド会社ロンドン本社所属の保険調査官が、ただちにファルマス港に派遣された。同船内を直接調べ、損害査定書を作成するために――。

「Return of the Obra Dinn」は、探索と論理的推理で展開する、一人称視点の謎解きミステリーアドベンチャーゲームである。

 

"Papers,please"の作者による推理ゲーム。

PCゲーには珍しく(?)いろんなコンシューマー機にも移植されている。なんかすごい賞も受賞したらしく、すごく評判がいいらしい。

実際、それに恥じない傑作だったと思う。

ゲームデザイン、音楽、それらすべてが融合したストーリーテリングの傑作だ。

 

幽霊船に小舟で乗り付けた主人公は、死の瞬間を垣間見ることができる不思議な懐中時計を使い、行方不明になった船員たちの行方を確かめることになる。

ゲーム的には、死体(もしくは死体跡地)を見つける→死の瞬間を見る→身元を特定するの繰り返し。

かなり絶妙な難易度設定になっており、人によっては久々に歯ごたえのあるゲーム体験になるだろう。本作第一の魅力だ。

60人もの人間の死を、たった一人で見なければならない。それだけでも精神的に若干キツいものがあるのだが、それをさらに駆り立ててくるのが現実世界での船の描写。

見渡す限り真っ黒な海、やがて訪れる嵐の予感、にもかかわらずゲーム中での現実世界は全くの無音なのだ。こんな状態で無人の船の中を歩き回るのはゲームだといってもかなり心細くなる。

ワトソン君さえ隣にいてくれたら……(一応船まで送ってくれた爺さんがいるんだけど、甲板に上がってこないので全く存在感がない。というか信用できない。最初こいつが黒幕なんじゃないかと思ってた。船降りるときにニターッと笑った爺の顔のアップになってバッドエンドみたいな)

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Nintendo Switchの該当ページより引用。きれいな景色に見えるが(だからこそ)歩いてるとマジで人恋しくなる。

 

無音の現実世界にいると、どうしても他の人間の存在を感じたくなる。

そんな状態から過去の世界に飛び込むと、そこはまさにスペクタクルの最中。

心からのいさかいの声、命が消えるまさにその瞬間の光景、鳴り響くドラマティックな音楽。"Soldiers of the Sea"の音楽とかすごくいいよね。葬式の鐘を想起させるあの響き。

過去世界から現実世界に戻った時、プレイヤーはきっとこう感じることだろう。

「はやく次の死体に行きたい!」と。

本作二つ目のポイントは、この現実世界と過去世界の落差にあると思う。

大事件の最中にある過去世界に対して、現実世界はあまりにも静謐だ。

その落差こそがゲームを進める原動力となる。

船員たちに次第に親近感を覚えるようになったプレイヤーも多いのではなかろうか?

次のスペクタクルを求めて、気づけば過去世界に入りびたりになってしまうのだ。


Return of The Obra Dinn | Soldiers of the Sea | OST

 

飛び込んだ過去世界で描かれるのは、超常と日常が接する物語。

オブラ・ディン号が遭遇する災難は、ある種オカルト的なエピソードだ。

こっち方向に行ってほしくないと思うプレイヤーも多いことだろう。船員の反乱とか。

ただまあ、60人失踪はオカルトなしではなかなかキツいんじゃないかなというのが正直な感想だ。

60人全員の殺し合い見るのもワンパターンというか、つらすぎるというか……

とはいえストーリーはかなり優秀、というかちょうどいい塩梅に収まっている。

本作第二の傑作ポイントはこのストーリーの絶妙なバランスだ。

あらすじで描かれる通り、主人公はあくまで現代に生きる保険調査官。

過去に起きたオカルト話の真相を調べることなんてできない。死の瞬間をのぞき込み、船員の身柄を特定することができるだけ。

いくら親近感を覚えても、船員たちを救うことはできない。

生き残った船員たちにも「かかわってくれんなや」と言われてしまう(向こうから見たら知らない人なんだからそりゃそうだ)。

主人公が垣間見たオブラ・ディン号の物語を、主人公は誰とも共有することができない。

絶妙な距離感をもったストーリー、それが"Return of the Obra Dinn" 三つ目にして最大の魅力だ。

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Steam該当ページより引用。彼らの生を、死を見た主人公だが、それを共有する相手はもはやこの世にはいない。

 

60人の命を呑み込み、なお静謐な黒の海。

 

無数の残留思念を抱えたまま浮かぶオブラ・ディン号はまさしく棺。海に浮かぶ棺だ。

やがてプレイヤーは船を降り、陸へと帰っていくのだろう。

分かち合えない死の物語をただ一人、胸に抱えながら。