リチャード・ポワイエによる『重力の虹』の最初期のレビューを翻訳してみる ①

原文:https://gravitys-rainbow.pynchonwiki.com/wiki/index.php?title=Rocket_Power

筆者は別に英語得意じゃないので間違いとかは指摘してください。

 

ロケット・パワー

1973/5/3The Saturday Review、リチャード・ポワイエ

 

1963年にトマス・ピンチョンが有名となるきっかけとなり、その後彼に会ったり写真を撮ったりインタビューしたりしようとした人一切を困惑の渦に叩き込んだ『V.』は、非常に多様かつ多重構造を持った作品であり、文学史上最も優れた処女作であり、一線級のバランスと文体的なリソースを持つ十年に一度の傑作である。

その3年後には『競売ナンバー49の叫び』が出版されたが、こちらは『V.』よりかなり短くなったという理由だけ考えればよりとっつきやすくなったと言えるが、『V.』から特に複雑な部分を抜き取ってきたという印象である。

そして今、『重力の虹』が出版された。

V.』よりも野心的、(その中心的な謎が暗号から超音速ロケットへと変わったという点で)より時事的、かつより複雑となった『重力の虹』を、ピンチョンのファンが今までイメージしてきたピンチョン作品の体系(つまり、「終末」と「エントロピー」の体系)の中にあてはめることは難しい。

 

ピンチョンは36歳にして、歴史的に重要な小説家としての地位を確立した。

ノーマン・メイラーを含む他の生きている作家全員と比べても、ピンチョンは最も歴史的に重要であると言わざるを得ない。それは、目に見える形で現れる技術の中にある目に見えない我々の時代の動きをとらえることに成功している点からである。もっとも、彼は「歴史的」と言われることを好まないとは思うが。

重力の虹』において、彼のこれまでの作品以上に、歴史はノイローゼの一形態、時の流れに対する人間の進歩的な試みの記録として描かれている(これはノーマン・O・ブラウンが『エロスとタナトス』で示したのと同様だ)。

そんな歴史を記録するだけでも非常に骨が折れる作業だ。歴史を紡ぐ人間はファウスト的な人物だと言わざるをえない。

本書にもロケット工学の天才ブリツェロ大尉やパヴロフ行動学者エドワード・ポインツマンなどのファウスト的な人物が登場するが、しかし一方で、彼らは明らかに自分たちが支配していると思っているシステムの奴隷になってしまっている。

 

ピンチョンにとって、ファウスト的な考え方についての20世紀特有のコミカルな恐怖は、それがもはや個人の狂った英雄的行為の中には存在し得ないということである。

それらは官僚的企業の一部であり、歴史を(この本でロケットが最後に辿る道筋のように)「不可逆的」な道筋へと固定してしまう技術体系の一部なのだ。

この点から、すべての歴史の非属人化は、我々にマゾヒスティックな共同作業を強いる技術体系を伴った、どこか不合理なものとして想像されている。

このマゾヒスティックな共同作業はある登場人物にも表れている:彼女は降伏の中でではなく、絶望の中で自分の尻に鞭をうつ。自分がまだ人間であり、泣くことができる存在であるかどうかを確かめるために。

重力の虹』における究極の鞭、システムが生み出す最終産物、それは超音速ロケット。第二次世界大戦におけるドイツのV2ロケットである。ピンチョンの恐るべき本の中で、それはモビー・ディックとピークォッド号の合体版、処女と絶倫の合いの子である。

 

もしこの本の中にピンチョンが現代の技術・政治・文化の複雑なネットワークを複製したとするならば、『重力の虹』の文体とその目まぐるしい移り変わりは、今日のメディアや運動の特徴である、どんどん速くなる一つのモードから次のモードへの移り変わりの目まぐるしいテンポを再現したものである。

本書で繰り返し描かれるメタファーと同様に、我々は今まさに人間の「領域」を、「重力」とそれによる自然の美を超えて運ばれつつあるのである。我々の上昇において、安全な「帰還」も再突入も使い果たされてしまった。ただ自滅的な形でしか、地球を我々のか弱く、時に支配された魂にとって素晴らしい「我が家」にしてくれた大気圏に帰るすべはないのである。

 

ピンチョンの中で私たちは、私たちの情熱・エネルギー・欲求を結び付けた物体によって、自分自身に「帰る」のであり、我々の祖先が記憶しているあの地球へと帰るのである。

我々は若きゴッドフリート、あの特別にナンバリングされたV2ロケット00000号の中に入れられることを承諾した兵士となり、(彼が見ることができたなら)忘れられない光景の中で音速を超えて打ち上げられ、そして確実な死に向かって落ちていくのだ。

 

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