リチャード・ポワイエによる『重力の虹』最初期のレビューを翻訳してみる ②

原文:https://gravitys-rainbow.pynchonwiki.com/wiki/index.php?title=Rocket_Power

筆者は別に英語得意じゃないので間違いとかは指摘してください。

①↓ 

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すべての単語がすべての単語とつながりあい、メインキャラクターがみんなパラノイアなせいですべてのデティールが前兆や手掛かりになり他の細部と不意につながってしまうような可能性が含まれている、そんな40万語の本を要約するなんてことは不可能である。

重力の虹』の中で解かれる謎はいくつかあるものの、それは一つのパターンを別のパターンへと組み換えたり修正したりするだけで、さらなる謎を生み出すばかりだ。

重力の虹』は先の読める展開が全くないまま積み重なっていくプロセスであるため、どんな要約であってもこの本のせいでパラノイアになった読者の産物以外の何物でもない。

さらにややこしいことに、登場人物たちはフィクションによくあるような、ある程度どんな人物でどんな役職かわかるような形で紹介されてはいない。

どのチャプターでも(数字ではなく、映画のスプロケット穴を想起させる複数の小さな四角形で区切られているどのチャプターでも)、私たちはたくさんの登場人物と物体のあるシーンの中にいきなり叩き込まれる。まるで私たちの目の前の映画のスクリーンに突然現れたみたいに。

 

重力の虹』には400人の登場人物がおり、そのそれぞれにピンチョンらしい名前が付けられている(話はズレるが、懐かしのブラッディ・チクリッツが『競売ナンバー49の叫び』から再登場している)。困ったときには参考文献を見つけられそうな登場人物もたくさんいる(例えば、ケクレやリービッヒ、マクスウェルなどの有機化学のパイオニアたち)。

ケノーシャ・キッドの部分をはじめとした隠れた引用のある文章もある。ケノーシャ・キッドはたぶんオーソン・ウェルズのことだと思うね、ウィスコンシン州ケノーシャ生まれだから。『市民ケーン』と、その中に登場する辞世の句「バラのつぼみ」が彼の蓄えられた富と力の手がかりととらえられていたが実際には彼が子供のころ愛していたそりの名前であり、ラストシーンではそれが燃やされてしまうことを考えてみると、オーソン・ウェルズはケノーシャ・キッドの参考文献としては適切だろう。

この本にあるすべてのデティール、すべての描写がこんな調子で捉えられてしまう。しかしそのどれもが決定的な手掛かりではないから、気づかず見過ごしてしまうことを過度に恐れる心配はない。

 

例えば、この本に登場する第二次世界大戦時のアルファベット式の略号の機関や国際カルテルをすべてメモしておこうとする読者なんていないだろうし、そんなところを期待してこの本を読む読者もいないだろう。

重要なのは混乱そのものである。CIAはあなたが普段思っているようなものではなく、むしろアブノーマルを作り出すための化学装置なのだ。

この本は変装、つまりアイデンティティの変化と融合に満ち溢れている。

メインプロットの主人公はニューイングランド植民地のピューリタンの血統を祖先に持つタイロン・スロースロップ中尉だが、ある時の彼はイギリスの記者イアン・カップリングであり、ベルリンでマントとヘルメットを着けた時の彼はロケットマンである(この名前はワーグナーのオペラの登場人物"Fickt nicht mit den Racketmensch"、「貧しい男は2人の強盗から逃れるためにハーモニカを使って叫ぶ」からとられている)。ドイツの小さな町ではまた新たなコスチュームと名前を手に入れる。面倒を見てやっている子供から頼まれて、10世紀に突如として現れ人々を解放したPlechazunga(豚の英雄)となるのだ。その後はずっと豚の衣装のままである。

 

 ③↓

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